宣伝文

 福谷圭祐は口を大きく開きながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。目の前にいる女性をまともに見ていられないのは、強いライトの光のせいだけではなかった。こんなになるまで放置して、その後始末を他人の手に任せているのだ。どうして堂々としていられようか。麻酔で痛みさえ感じないままに、元通りに戻してもらおうとしている自分が憎かった。口の中で、見慣れない治療器具が怒っているように回転して、高い音を鳴らしながら福谷の歯を削っていく。振動が骨を伝って頭に響くのを感じながら、今週末に出演する舞台のことを考えた。

それから二日後の現在。福谷は兵庫県伊丹市にあるアイホールという劇場にいる。11月13日から始まるそのお芝居は、息子がセクシャルマイノリティであることが発覚したある家庭の一日を描くものだ。福谷には珍しく、俳優としてこの作品に関わっている。約一ヶ月間の稽古を、福谷は懸命にこなした。学ぶところは多く、真似ようと思うところも多かった。実際のところ、大学で過ごした四年間なんかより、一つの演劇作品に携わったほうが身になることが多いと福谷は考えていた。特に今回の作品は台本が難航していたようで、作家の横山さんと演出家の上田さんが何度も話し合う光景を見かけた。そのたびに台本は新しくなり、新しくなるごとに鋭さを増していった。ずるい、と福谷は思っていたし、「ずるい。」と実際に言った。横山さんは、「自分に合うパートナーを見つけるといいよ。」と言った。

 自分に合うパートナー。福谷は頭のなかで何度も反芻した。そんなものをこれから先、見つけることが出来るだろうかと思った。これは、自分に合うパートナーなどいないという傲慢な意味ではなかった。自分が、誰かと合うパートナー足りえるだろうかと福谷は思ったのだった。自分が誰かから必要とされ、誰かの能力を増幅し、誰かの助けとなることなどこの先あり得るのだろうかと思ったのだった。少なくとも、これまでは一度もなかった。

 もちろん、嘘である。


 

iaku「Walk in closet」

2015/11/13(金) ~ 2015/11/16(月)

会場 AI・HALL

出演

林英世、池之上頼嗣(劇団ひまわり)、や乃えいじ(PM/飛ぶ教室)、岸本奈津枝、緒方晋(TheStoneAge)、橋爪未萠里(劇団赤鬼)、福谷圭祐(匿名劇壇)

脚本 横山拓也

演出 上田一軒

一般前売3300円/当日3500円

U-22前売1500円/当日2000円

高校生以下500円(枚数限定)

http://iaku.jp/

※正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

 

13日(金)19:35

14日(土)14:05/19:05

15日(日)14:05

16日(月)14:05


予約はこちらから。

http://ticket.corich.jp/apply/68251/005/